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2019.10.07
「たっすいがは、いかん」について
先日、著者であるキリンビール元副社長、田村潤さんの講演を拝聴させていただく機会がありました。
キリンビールは創業時から、シェア6割を超える黄金時代が長らく続きます。
そんなキリンに冷水を浴びせたのが、1987年(昭和62年)、アサヒスーパードライの大ヒットです。
スーパードライは破竹の勢いで売れ続け、キリンのシェアはみるみる低下します。
焦るキリンは、ここでまたしくじります。
キリンラガーは苦味が特徴だったのですが、スーパードライに感化され、苦味を抑えた飲みやすい味に変えてしまったのです。
土佐弁でいう「たすい」味です。
これがまたキリンラガーファンの反感を買ってしまい、シェアはさらに低下してしまいます。
そんな最悪な環境の1995年、田村氏は45才で業績が最下位レベルの高知支店長に赴任されました。
事実上の左遷人事です。
しかし田村氏は腐ることなく、支店メンバー12名の意識改革に取り組みます。
その結果、キリンの全支店がシェアを落とす中、高知だけは県内シェアを逆転。
全国で唯一高知県だけが勝ち続けたことから、「高知支店の奇跡」と言われました。
私が感じた田村氏の特筆すべき点です。
一点目は、キリンの味を元に戻すように社長に直談判したことです。
一地方の支店長が大企業のトップに物申す、まさに首を覚悟した勇気ある行動です。
支店長が本社と戦う姿勢をみせることで、メンバーの士気高揚にもつながったことでしょう。
苦労の末、味を元に戻すことに成功したのですが、
それを逆手に取ったキャッチコピーが、冒頭の「たっすいがは、いかん」です。
テレビCM、ラジオ、ポスターなどで、「たっすいがは、いかん」を繰り返しPRすることで、
このキャッチコピーは高知県民の心にすっかり浸透しました。
このできごとはNHKでも放映されたそうです。
まさにピンチを逆手に取ったマーケティングです。
二点目は、理念や使命をメンバーに植えつけ、メンバー自ら考え行動する自立心を育てたことです。
田村氏が考えるリーダーのミッションです。
1.ビジョンを明確に描く
2.ビジョンを「自分が実現する」と決める
3.ビジョン実現のための戦略・戦術(勝利へのシナリオ)を考え抜く
4.勝利へのシナリオを「自分がやりきる」と決める
5.結果のコミュニケーションと徹底した活動の継続
これらを時間をかけて、繰り返し繰り返しメンバーに伝え続けたそうです。
すさまじい勝利への執念です。
田村氏は高知支店長を6年勤め、高松の四国地区本部長に昇格。
全国のシェア低下が続く中、四国だけが反転し、四県ともベスト10入り。
2004年、東海地区の本部長に昇格し、静岡、三重、岐阜のシェアトップを奪回。
2007年、本社に営業本部長として昇格し、2009年、全国で9年ぶりに首位を奪回、副社長に就任。
45才で左遷された支店長が副社長にまで上り詰める。
まるで池井戸潤のドラマのようです。
田村氏は舞台が変わっても「勝つための基本は変わらない」ことを身をもって証明されました。
理念を伝え続ける。
ミッションを伝え続ける。
リーダーとして「思いを伝え続ける」ことの重要性を教えていただいた1日でした。
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